自転車通勤をした朝、体の感覚が目覚めた感じがした。
信号待ちをしていたら、上品で甘いバラの香りがしてきた。
振り向くと、道の角に、ピンクのバラが20本ほどまとまって咲いている花壇があった。朝日を浴びて花びらが数えられるように立体的に浮かび上がっていた。
あまりにもいい香りと花の美しさで、脳が喜び目覚めた。
もっとゆっくり香りと色を楽しみたいと思ったが、信号が青にかわってしまった。先を急がなければならない。
街を抜け郊外に出ると、一面田畑が広がった。遠くの山を眺めつつ走る田んぼ道は、ほっとさせてくれる景色だ。
「氣」というものがあるかどうかはわからないが、その場が持つ非常にいい「氣」を体が無意識に感じた。
体に染み込んでくるというか、体がその場の「氣」と同化しようとする感じというか、頭ではなく体が先に感じて喜んだ。
その田んぼに残された稲刈り後に裁断された藁からは、新鮮な畳のような緑の香りが一気に押し寄せてきた。
緑の香りを全身で浴びると、リラックスを越えた感覚、体の細胞が呼び起こされる感じがした。
たった30分の走行で、体が一本のドラマを味わったような感じがした朝だった。